善玉のビフィズス菌が腸を守るメカニズムを解明 理研など
2011年1月28日 15:06
ヒトの腸内には、病気の原因となる「悪玉菌」や、健康維持に活躍する「善玉菌」など、腸内常在細菌が100兆個ほどもあるという。無数の腸内菌が集まってできる「菌叢」を食事でコントロールできれば、健康増進につながる可能性がある。
善玉菌を増やせば悪玉菌が減り、健康増進や予防医学に役立てられると考えられているが、その予防効果の作用メカニズムはよく分かっていない。
腸内細菌の一種であるビフィズス菌が、O157による腸の炎症や死亡を防ぐ仕組みを、理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターなどの研究グループがマウスを使った実験で解明した。
善玉菌(プロバイオティクス)による健康増進や予防に期待
ビフィズス菌によるO157感染死を予防する効果
ビフィズス菌は善玉菌のひとつで、プロバイオティクスのヨーグルトなどの発酵乳製品や整腸剤として利用されている。
一方、O157は食中毒の原因菌のひとつで、下痢や腹痛を引き起こす。ひどい場合には出血性大腸炎や、毒素が体内に入ると溶血性尿毒症症候群、脳症などを発症することもある。
研究チームは、体内に菌をもたないマウスにビフィズス菌を1週間、経口投与した。その後に、O157を感染させて腸内を調べた。
その結果、O157による血液中の毒素量は、ビフィズス菌を与えたマウスでは5分の1以下に抑えられていた。与えていないマウスはこの毒素で死んだ。このことから、O157が感染死を予防していることが分かった。
生存したマウスの腸内を調べたところ、ビフィズス菌を与えたマウスでは、ブドウ糖などの糖類の量が2分の1以下に減少しており、短鎖脂肪酸のひとつである酢酸の量が2倍近く高くなっていた。
さらに、遺伝子を解析した結果、ビフィズス菌を与えたマウスでは、細胞のエネルギー代謝や抗炎症作用に関係する遺伝子群の発現が2〜3倍上昇していることが分かった。
ビフィズス菌の遺伝子が果糖を菌内に取り込む働きをし、腸内で果糖から酢酸を生成し、血中にO157の毒素が侵入するのを防ぎ腸粘膜を保護する「バリアー」にような効果を高めていると考えている。
この研究は、英科学誌「ネイチャー」に1月27日付で発表された。
ビフィズス菌の作る酢酸がO157感染を抑止することを発見(理化学研究所、2011年1月27日)
Bifidobacteria can protect from enteropathogenic infection through production of acetate
Nature, Volume 469 543-547, Date published:(27 January 2011), DOI:doi:10.1038/nature09646