コーヒーが2型糖尿病発症リスクを低減 最新のエビデンスを検証
2011年11月 7日 14:01
 「食と生命のサイエンス・フォーラム〜コーヒーと糖尿病についての最新知見〜」が、11月2日に東京大学農学部弥生講堂で開催された。東京大学総括プロジェクト機構 食と生命総括寄付講座とネスレリサーチ東京が共同主催した。

 コーヒーの摂取と生活習慣病との関連について、コーヒーをよく飲む人で糖尿病発症者が少ない傾向があることは、多数の研究でほぼ確立されている。一方で、食品に薬剤のような効果が認められているわけではない。今回のフォーラムでは、コーヒーと糖尿病に関する国内外の最新の報告と知見が交換された。

 コーヒーには数百におよぶ成分が含まれており、そのなかには2型糖尿病など生活習慣病の予防に有用なものも含まれている。コーヒーの栄養成分は、炭水化物、カフェイン、トリゴネリンなど窒素化合物、クロロゲン酸、ポリフェノール、有機酸類、脂質、揮発性物質など。

 コーヒーと糖尿病発症との関連について、ロブ M. ヴァン ダム氏が2002年に、コーヒーを多く飲む人では糖尿病の発症が減少するとの研究報告を「Lancet」に発表した。それによると、約1万7000人のオランダ人男女を平均約7年間追跡し、1日に7杯以上コーヒーを摂取する人では、2型糖尿病の発症に対する相対危険度が1日2杯以下の人の約2分の1になるという結論が示された。

コーヒーが抗酸化物質の摂取源に
 お茶の水女子大学院の近藤和雄教授は、「動脈硬化の発症にLDLコレステロールの酸化変性が大きく関わる。予防するために、食生活の改善に加え、抗酸化能を有する食品因子を効果的に取り入れることが重要となる」と述べた。

 近藤教授らは、抗酸化物のなかでも、食品の色素成分や苦味、渋味成分であるポリフェノールに着目している。日本人における主要なボリフェノール源となる食品を調査したところ、コーヒーからのポリフェノール摂取量が最も多いことがあきらかとなり、コーヒーが抗酸化物質の摂取源として一定の役割を果たしていることが推察された。

 動脈硬化の初期段階の特徴として、血管内皮機能の障害が挙げられる。血管内皮機能の指標として、血液依存性血管拡張反応(FMD)を用い、コーヒー摂取の影響を検討したところ、FMD(%)の有意な上昇が認められ、動脈硬化の抑制が示唆された。

 岐阜大学大学院医学系研究科の永田知里教授(疫学・予防医学)は、35歳以上約3万人を対象に生活習慣調査を行った「高山スタディ」で得られた研究成果を示した。1992年に食物摂取頻度調査票を用い、169項目にわたる食品、飲料、メニューの過去1年間の摂取状況について調査し、2002年にはスタディ開始時70歳未満の参加者を対象に追跡調査を行った。

 解析対象者は1万3,540人に上り、追跡期間中に443名が糖尿病を発症した。ベースライン時にコーヒーを全くあるいはほとんど飲まない男性に比べ、コーヒーを飲む男性は糖尿病発症のリスクが有意に低く、女性ではコーヒーの摂取量が多いほど糖尿病発症のリスクが低かった。男女ともコーヒーを毎日飲む者では、糖尿病発症のリスクは約30%低下していた。

コーヒーが脂肪組織や肝機能を改善する可能性
 コーヒーの習慣的な飲用と2型糖尿病のリスク低下との関連が観察研究で一貫して示されている。一方で、カフェイン入リコーヒーの摂取が血糖値を高め、インスリン感受性を低下させる急性的な影響もあることも知られている。

 九州大学大学院医学研究院の古野純典教授(予防医学)は、糖代謝に及ぼすコーヒーの慢性影響を検討した試験が少ないことにふれ、「血漿ホモシスティンに対する影響をみるために計画された2つの試験のひとつで、4週間のコーヒー飲用により空腹時インスリン値の上昇が観察されたが、血糖値の変化はみられなかった。もうひとつの試験では、コーヒーあるいはカフェインの摂取2週間後の空腹時血糖値やインスリン値に変化がなかった」と指摘。

 古野教授は、カフェイン人リインスタントコーヒー(1日5杯)とカフェイン抜きインスタントコーヒー(1日5杯)の糖代謝への影響を検討するために、過体重の中年男性健常人を対象として16週間の無作為化比較試験を実施した。糖代謝は複数回実施のOGTTによリ評価した。予備的解析では、カフェイン入リインスタントコーヒー摂取で負荷後2時間血糖値の軽度の低下が観察されたしている。

 国立シンガポール大学医学部のロブ M. ヴァン ダム准教授は、「さまざまな横断的研究により、習慣的なコーヒー摂取は、インスリン分泌よりも、むしろインスリン感受性を高める可能性が示唆された」としながらも、「コーヒー摂取と糖代謝改善との関連にコーヒーのどの成分が関わっているか、まだ分かっていない」と述べた。

 コーヒーに含まれるカフェインは、インスリンの効果を短期的に弱くし、グルーコースの取り込みを減弱する一方で、カフェインがインスリン分泌を促すという知見は少なくない。カフェインが褐色脂肪細胞からの熱の放出を促し、体内への脂肪の蓄積を減少させると考えられている。

 また、いくつかの研究ではカフェイン入リコーヒーもカフェイン抜きコーヒーも同様に2型糖尿病リスク低減との関連が示されており、カフェイン以外の成分が関与している可能性がある。コーヒーに含まれるクロロゲン酸は抗酸化作用をもち、肝臓での糖新生を抑制する効果があることが知られる。

 「血漿アディポネクチンとフェチュイン濃度に対するコーヒーの有益な効果がみられており、脂肪組織や肝機能の改善が、コーヒー長期摂取の代謝改善効果に寄与しているものと考えられる」とヴァン ダム氏は述べている。

 ヴァン ダム氏は2型糖尿病患者のコーヒー摂取について、「いくつかの小規模な介入研究で、グルコース代謝に対する数週間のコーヒー摂取の有効性や有害性は見出されていない。2型糖尿病患者のコーヒー摂取が勧められるかは不明だ。コーヒーの予防的関連のメカニズムをあきらかにするため、大規模無作為化介入研究の実施が望まれる」と結んだ。

東京大学総括プロジェクト機構 総括寄付講座「食と生命」

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