「ギャンブル依存症」患者のメカニズムが明らかに 脳の働きに違いが
2017年4月26日 13:10
 京都大学は、「ギャンブル依存症」の患者は、自分の置かれた状況を理解し、リスクに対する態度を柔軟に切り替える能力に障害があること、また、脳の前頭前野での結合が弱いことを明らかにしたと発表した。
「ギャンブル依存症」は患者と家族に障害をもたらす
 金銭的な問題を抱えてもギャンブルをやめられずに続けてしまう「ギャンブル依存症」。ギャンブルについての制御が困難になるため、患者本人だけでなく家族や周囲の人間にも影響が大きい障害だ。

 日本は欧米と比べて潜在的な予備群も含めるとギャンブル依存症が多いと考えられている。

 これまでの研究や臨床では、ギャンブル依存症の患者は常に過剰にリスクを好み、性格のように一定の傾向がみられるという考え方が主流だった。

 しかし、人は状況に応じてどの程度リスクを許容するかという判断を柔軟に切り替えて生活しており、患者もまた多様にリスクへの態度を切り替えていると考えられるため、過去のモデルによる依存症の理解や治療には限界があった。
状況に応じてリスクのとり方を切り替える能力に障害
 ギャンブル依存症は単に意志の弱さや性格の問題としては片付けられないが、確かにギャンブル依存症になりやすい性格というものがある。しかし、ギャンブル依存症の患者は過剰に刺激を求め、リスクをとる選択をしがちな性格に偏っているわけではないこともこれまでの研究で明らかになっている。

 例えば、サッカーの試合の前半で、試合が拮抗していたら、プレーヤーは守備を重視しつつ、攻撃陣と守備陣のバランスを考えた選手の配置を考える。しかし、後半終了間際で、負けていたら、守備陣を手薄にしてでも攻撃陣を増やすというリスクのある戦略をとる必要がある。この場合、失点をしない安全な戦略を続けても、そのまま試合は負けになってしまう。この例のように、人は状況によってリスクのとり方を切り替えている。

 研究グループは、ギャンブル依存症では状況に応じてリスクのとり方を切り替える能力に障害があるのではないかという仮説を立てた。

 たとえば患者は、サッカーの試合の前半のように比較的安全な戦略が必要な状況でも、試合終了間際で負けている場合と同じような不必要なプレッシャーを感じて、過剰なリスクを選択しているのではないかと考えた。
依存症の患者はハイリスク・ハイリターンを選ぶ傾向が強い
 研究グループは、ギャンブル依存症と診断された男性患者21名と健常男性29名を対象に、新たに考案したギャンブル課題を実行中の脳活動を、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)により検査した。

 今回の課題では、まず画面にハイリスク・ハイリターンのギャンブルと低リスク・低リターンの二つのギャンブルが次々と提示される。参加者は、自分の好みに応じて、この二つのギャンブルからひとつを選択することを繰り返し、毎回の結果がフィードバックされる。

 この課題の特徴はステージ制を導入したことだ。ステージ毎に20回2つのギャンブルから片方を選択できるが、各ステージにはクリアするための最少ポイントが設定されている。参加者はなるべく多くのステージをクリアすることが求められる。

 あるステージでは、でたらめに選択しても簡単にステージがクリアできるほどノルマが低く設定されているが、高ポイントを当て続けないとクリアするのが困難なノルマの厳しいステージもある。

 また、ステージが始まる時点でのノルマが同じでも、前半に高ポイントを多く当てていると、後半のノルマは緩くなり、反対に前半にポイントを稼げないと後半はノルマが厳しくなってくるというように、ノルマがアップデートされていくよう設定された。

 その結果、未治療/治療期間が短いグループは健常者と比べて全体的にハイリスク・ハイリターンのギャンブルを選択する傾向が強いことや、特に低ノルマ条件で、ハイリスク・ハイリターンのギャンブルを選択する傾向が強いということが分かった。つまり、リスクをとらなくてもクリアできる可能性が高い条件で不必要にリスクをとっていることが分かった。
ギャンブル依存症の患者は柔軟に切り替えるのが苦手
 さらに、治療期間が短い患者ほど、低ノルマ条件で不必要にリスクをとる傾向もみられた。健常者が柔軟にリスクのとり方を切り替えているのに対して、未治療あるいはギャンブルをやめている期間が短い患者では、その切り替えが上手くできていないことが示された。

 研究グループは、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)による脳活動の検査も行った。これまでの研究で、ノルマの厳しさを正しく認識するのに必要なのは背外側前頭前野、前部帯状回、島皮質であり、リスク態度の切り替えには背外側前頭前野と内側前頭前野の結合が重要であることが分かっている。

 今回の研究では、ギャンブル依存症患者では、ノルマの厳しさを正しく認識するのに必要な背外側前頭前野の活動が低下していること、リスク態度の切り替えに重要な背外側前頭前野と内側前頭前野の結合が弱い患者ほど、ギャンブルを絶っている期間が短く、低ノルマ条件でハイリスク・ハイリターンのギャンブルを選択する傾向が強いことが明らかになった。

 今回の研究を通して、ギャンブル依存症では状況を理解し、柔軟にリスクに対する態度を切り替える能力に障害があることが分かった。依存症の神経基盤を明らかにすることで、多様なギャンブル依存症の病態への理解や、新たな治療法開発につながるものと期待される。

 今後研究グループは、ギャンブル依存症におけるリスク態度の切り替え障害を改善させるために、脳に直接介入するニューロモデュレーションの開発を目指すとしている。また、柔軟に戦略や視点を切り替える障害はほかの精神疾患にも認められるため、柔軟性の向上を目指す方法の開発も進める方針だ。

 この研究は、京都大学医学研究科の高橋英彦准教授、鶴身孝介助教、現放射線医学総合研究所の藤本淳研究員らの研究グループによるもの。研究成果は英学術誌「Translational Psychiatry」に発表された。

京都大学医学研究科
Deficit of state-dependent risk attitude modulation in gambling disorder(Translational Psychiatry 2017年4月4日)
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