健康に生きるための5つの「ライフ スキル」 人生で勝つために学びが必要
2017年6月 8日 10:34
より健康に生きるために、感情を安定させる、自己決定をする、楽観的である、良心的であるといった、「ライフ スキル」(生きる力)を実行することが大切だという研究が発表された。
人生で成功をおさめるために内的な学びが必要
人生が始まった時期には親からの愛情や、成長と学習を促す教育が重要であることは明らかだが、人生が進むにつれさらに必要なことが出てくる。その多くは、個々の人が自ら学習して人生をコントロールしながら得るものだ。
英国のユニバーシティ カレッジ ロンドンの研究者は、それを「ライフ スキル」(生きる力)と名付け、実行している数の多い人ほど成功した人生をおくり、幸福であり、健康である傾向があることを研究で突き止めた。
生い立ちが不遇だった人でも、5つの「ライフ スキル」を実行すれば、人生において成功を勝ちとることができるという。
研究チームは、生い立ちが幸福で裕福な人が、その後の人生で必ずしも成功し幸福になるわけではないことに着目した。同じように人生のスタートで恵まれなかった人が、年齢を重ねるにつれ健康になる場合もある。
どのような条件が人生の幸福と健康を決めるのかを調査した結果、外部の環境ではなく、内部の行動パターンが決め手となると考えた。
研究は、生活スタイルと健康の関連を長期にわたり調査している「英国加齢縦断研究」(ELISA)の一環として行われた。
研究チームは8,119人の52歳以上の男女を追跡して調査し、参加者を対象にアンケート調査と健康診断を実施し、行動バターンを5つの指標で判定した。
この研究は、「米国科学アカデミー紀要」(PNAS)に発表された。
5つの「ライフ スキル」 実行している人は健康に
5つの「ライフ スキル」とは、▽感情的な安定、▽自己決定、▽コントロール、▽楽観主義、▽良心的であること。
「5つのライフ スキルのうち、どれがもっとも重要であるかは問題ではありません。どれもが相互に影響しあいながら効果を及ぼしていると考えるべきです」と、ユニバーシティ カレッジ ロンドン公衆衛生学部のアンドリュー ステプトー教授は言う。
● 感情の安定
1つめは「感情の安定」。感情が安定している人は、行動のバランスを整えるのに長けていて、不当な不利益を被ることが少なく、労働環境を整備するのが上手く、結果としてストレスの影響が少ないという。
企業などの組織で協調的に働くためにも、感情の安定は必要とされる。より若い時期に感情を安定させる方法を習得した人は、年齢を重ねても健康である傾向がみられた。
● 自己決定
2つめは「自己決定」。参加者の多くは健康増進について十分な知識をもっているが、それを実行する自己決定が欠けているケースが多かった。
たとえば、「健康のために運動を毎日行うことが必要だ」と理解していても、すべての人が実際に行動できるわけではない。自己決定によって健康増進に役立つ生活スタイルを選択できる人は、実際に健康に歳を重ねている傾向がみられた。
多くのは保健指導者は、健康的な生活スタイルを身に付けてもらうための動機付けを加えることに苦心しているが、本当に必要なのは保健指導を受けている人の自らの判断と行動だ。自己決定は健康と幸福のために必要だと、研究者は述べている。
● コントロール
3つめは「コントロール」。周囲の環境や状況をみながら、変化が起きているときにはそれを察知して、自らの行動を調整できる人はストレスが少なく、より実効的な行動ができ、生産力も向上する傾向がみられた。
いま行動していることが、将来にどのような影響して自らに返ってくるかを予測できる人は、より的確に行動でき、健康問題を抱える可能性も少ないという。
● 楽観主義
4つめは「楽観主義」。楽観的な人は、良いことは、それが非現実的でない限りにおいて、実現可能だと考える傾向がある。結果として、良い結果を生み出す可能性のある事柄に積極的に取り組むようになる。このことが他の「ライフ スキル」と組み合わさると、相乗的に効果をもらたし事態が好転することが多い。
ステプトー教授らの他の研究では、楽観的な人は健康増進についても、それが良いことだと理解できれば、生活スタイルの改善にも積極的になりやすく、ストレスも受けにくいことが示された。「人生を楽しんでいる」という自覚のある人は、生活習慣病の発症率が低く、長寿である傾向があるという。
たとえば、楽観的な人は心疾患を発症して入院治療を受けた場合でも、リハビリに積極的に取り組み、良い成果を生み出すことが多い。
● 良心的であること
5つめは「良心的であること」。良心的な人々は、正しいと思われることをいかに実行するかに関心をもつ。組織の中でも協調的で、詳細に注意を払って、思い責任を負っても適切に行動することに注意を向ける。
イリノイ大学の研究では、良心的な人々は安定した職業生活や結婚生活をおくり、周囲からも信頼され、健康的である傾向があることが示された。ハーバード大学の研究は、組織に良心的な人がいると、その組織全体の生産性が高まるという結果になった。
仕事や家庭で良心的にふるまうのは実は簡単なことだという。典型的な例は、その日に行うべき事柄をリスト化し、デスクに置いておき、実行した順に消していくという方法でも実行できる。最近はスマートフォンが普及しているので、有効に利用するのも効果的だ。
社会交流も健康的に生きるための大切な要素
5つの「ライフ スキル」のうち4つ以上が該当する人は全体の26.4%だったという。
ライフ スキルの得点の高い人は、コレステロール値が低く、炎症性疾患の指標となるC反応性タンパク値も低く、内臓脂肪の蓄積を示す腹囲周囲径も少ない傾向が示された。
一方で、自分の健康状態について「普通」「悪い」と回答した36.7%については、「ライフ スキル」の実行率は約6%まで低下した。
「誰でも年齢を重ねるにつれ体力が落ちていきますが、体力の衰えを知るために一般的に有用とされているのは、歩く速度です。ウォーキングの速度が遅くなるのは、全身の体力の低下のあらわれです。ウォーキングを習慣として続ければ、体力の低下を防げます」と、ステプトー教授は指摘する。
また、「自分は孤独である」と回答した人では、「ライフ スキル」の実行率は10.5%まで低下した。
「社会交流も健康的に生きるための大切な要素です。良心的で、楽観的であり、社会的な交わりを保つことも、健康的に歳を重ねるために必要です。若いうちからこれらの技術を伸ばしていくことが、体と心の健康を維持し、よりよく生きるための秘訣になります」と、ステプトー教授はアドバイスしている。
Life skills are important for wellbeing in later life(ユニバーシティ カレッジ ロンドン 2017年4月12日)
Life skills, wealth, health, and wellbeing in later life(PNAS 2017年3月9日)