がん患者の家族が経験する葛藤の実態 がん患者支援に向けた調査結果
2017年8月16日 14:50
進行がん患者の家族が経験する家族内の葛藤の実態について、筑波大学と東北大学の研究グループが調査結果をまとめた。
緩和ケア病棟で最期を迎えた患者の家族のうち、約40%が何かしらの家族内の葛藤を経験している。
がん患者の家族が経験した葛藤の実態を調査
がん患者の家族が経験する葛藤は、がん患者の苦痛や寂しさ、そして、介護者の負担感、抑うつ、悲嘆などに影響し、がん患者と家族のQOL(クオリティ オブ ライフ)に影響すると考えられている。
しかし、がん患者の家族がどのような葛藤を経験しているか、どのような家族に葛藤が多いかといったことは明らかになっていない。
そこで筑波大学と東北大学の研究グループは、緩和ケア病棟で最期を迎えたがん患者の家族が経験した葛藤の実態について検証を行った。
今回の研究は、ホスピス緩和ケアに関する研究や啓発活動を展開している「日本ホスピス緩和ケア協会」の事業である「J-HOPE2016研究」の付帯研究として実施された。同研究は、日本のがん患者の緩和ケアの質を評価するために、遺族を対象に行われている全国調査だ。
調査は、国内の71ヵ所の医療機関の緩和ケア病棟で、2016年1月31日以前に亡くなった患者の遺族を対象に行われ、458名が解析対象となった。
調査では「OFC scale」(Outcome-Family Conflict scale)を用いて家族内の葛藤について評価した。「OFC scale」は、がん患者の終末期に家族が経験する葛藤を評価するための8項目で構成される評価スケール。
がん患者の40%が家族内の葛藤を経験
その結果、緩和ケア病棟で最期を迎えた進行がん患者の家族のうち、約40%が何かしらの家族内の葛藤を経験していたことが分かった。
「自身が本来果たすべき役割を十分にしていない家族がいると思うことがあった」「患者の治療方針に関することで意見が合わないことがあった」については、20%以上の遺族が「とても良くあった」「よくあった」「時々あった」と回答した。
さらに、「遺族の年齢が若い場合」「家族内で意見を強く主張する人がいた場合」「病気後に家族内でのコミュニケーションが十分に取れていなかった場合」に、家族内の葛藤が増えることが示された。
一方で、「病気前に交流がなかった家族と連絡をとるようになった場合」に、家族内の葛藤が減ることも分かった。
家族内の葛藤に気付くことが、進行がん患者の家族の支援につながる
これらの結果から、緩和ケア病棟で最期を迎えた進行がん患者の家族は、家族内で葛藤を経験することが少なくないことが分かり、家族の年齢、家族内の関係性やコミュニケーションの状況が、家族内の葛藤の有無に関係する可能性があることが示された。
これらの知見から、医療従事者などが、家族内の関係性やコミュニケーションの状況を理解して関わることが、家族内の葛藤の有無に気付くことに役立ち、進行がん患者の家族への支援、そして、患者、家族のQOLの向上につながると考えられる。
ただし、今回の研究では、患者が亡くなった後に家族の記憶を頼りに回答してもらっている点、病気になる前の家族内の関係性やコミュニケーションの状況が評価できていない点など限界があり、今後のさらなる展開は必要だという。
研究は、筑波大学医学医療系の浜野淳氏、東北大学の宮下光令教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国精神腫瘍学会・英国精神腫瘍学会・国際精神腫瘍学会の論文誌「Psycho-Oncology」オンライン版に発表された。
日本ホスピス緩和ケア協会
日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団
筑波大学医学医療系