脳卒中で失われた運動機能がリハビリで回復 脳の変化を解明
2015年2月23日 16:59
 脳卒中などで脳の一部が損傷して失われた運動機能がリハビリで回復するのは、損傷した部分が果たしていた役割を別の部分が肩代わりするからだと、産業技術総合研究所などの研究チームが発表した。脳機能の回復メカニズムにもとづき、より効果的なリハビリ手法の開発が期待できるとしている。
脳の回復メカニズムにもとづいたリハビリが注目を集める
 日本では脳卒中をはじめとする脳の損傷が深刻な社会問題となっている。脳に損傷を受けると後遺症が残ることが多く、脳卒中は発症後に介護を必要とする疾病原因の第一位となっている。なかでも、手の運動機能の低下は、患者の日常生活を不便にする大きな要因となる。患者や家族の負担を軽減するために、リハビリによる機能回復の効率化が重要な課題となっている。

 そうした中で、脳の回復メカニズムにもとづいた新しいリハビリである「ニューロリハビリテーション」が注目を集めている。ニューロリハビリテーションは、脳の機能回復メカニズムを利用し、より完全な機能回復を目指すリハビリ。近年になって脳の神経ネットワークは固定されたものではなく、柔軟に変化しうるものであることが分かってきたので、この柔軟性を生かしたリハビリが模索されている。

 研究チームはサルを使って実験。大脳皮質から筋肉へ運動の指令を出す中心領域である「第一次運動野」のうち、手の運動機能を担う部分を薬で損傷させ、指で物をつまむ動きを麻痺させた。直後からリハビリを始めた。

 指先で物をつまむというような手先の器用な動作はヒトとサルなどの動物だけがもつ高度な運動機能で、大脳皮質による情報処理が必要なので、第一次運動野が損傷すると回復は難しい考えられていたが、1ヵ月後にサルの手の運動機能は回復していた。

 運動機能が回復するまでの脳の働きを、血流変化を測定する「陽電子放射断層撮影装置」(PET)で調べたところ、脳の正常な部分の血流が増え、活発に働いていたことが分かった。損傷から1〜2ヵ月後では第一次運動野から離れた場所にある「運動前野腹側部」という領域が、3〜4ヵ月後では第一次運動野の損傷部分に近い領域が、それぞれ活発に働いていた。

 2つの領域の活動を妨げる薬を投与すると麻痺が再発したことから、両領域の活発な活動がつまむ動きの回復に役立っていると判断した。リハビリによる運動機能の回復過程で、運動前野腹側部と第一次運動野に、損傷した領域の機能を補う新たな運動指令を伝える経路が確立された可能性がある。

 「回復をもたらす脳の変化にもとづいたより効果的なリハビリが開発されれば、患者や家族の身体的、金銭的負担の軽減、さらに、医療や介護の社会負担も減り、高齢者が元気に暮らせる社会の実現につながる」と、産総研の村田弓研究員は述べている。

 産総研は今後は、リハビリによる遺伝子発現の変化を、神経ネットワークの構造変化を解析して、リハビリが脳活動の変化を生み出す過程を解明する研究を予定している。得られた知見をリハビリに関わる医療技術者に提供し、新たなリハビリ手法や、より直接的に脳の活動を変える脳電気刺激療法、リハビリ促進薬剤の開発、リハビリ効果の評価法の開発につなげる考えだ。

 研究は、産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門システム脳科学研究グループの村田弓研究員、肥後範行主任研究員、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センターの林拓也ユニットリーダー、尾上浩隆グループディレクターらによるもの。医学誌「Journal of Neuroscience」に1月7日付で発表された。

産業技術総合研究所

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